きずきのきづき

建築の気付き

エキスパンションジョイントでこれだけは知っていてほしいこと。

建築用エキスパンションジョイントは、壊れることを想定して作られていません。建物が壊れないように、建物間に隙間を設けているのがエキスパンションジョイントです。

その隙間をを覆っている金物が、エキスパンションジョイント金物です。それは、稼働する仕組みになっていて、そのものには力を吸収する仕組みはありません。

私は建築に関わる仕事をしています。その仕組みなんて知らなくていいと思いますが、知っていてほしいことが3つあります。

 

 

この画像でわかることは?

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私は、構造設計者の指示を受けて構造計算書を見て、図面チェックをしていたこともあります。金物屋さんがエキスパンションジョイントを製作するため、可動量を基に、検討していたこともあります。

 

熊本地震の時です。ツイッターで流れてきました。「うちのマンション、割れています」といった内容だったと思います。怖いですね。

これは、建物が揺れによって分断されたのではありません。

さらには、ここで壊れるように作られたのでもありません。

 

画像元の方は、若そうだったのでリンク貼りません。(先ほど見ると鍵かけてましたね。)若者のツイッターの使い方についてはいろいろと思うところがありますが、、、。

若い子がそう思うのも無理ないと思います。実際に、建物が壊れて、タイルがひび割れています。しかし、隙間に関しては、建物の揺れを想定してに設けられた空きなので、隙間ができていること自体は問題ありません。

 

問題なのは、

1、エキスパンションジョイント金物が剥がれ落ちていること。

2、建物が破壊されていること。

です。

 

 

 

エキスパンションジョイント(以下、EXP.J)とは

エキスパンションジョイント (Expansion joint、エクスパンションジョイント) とは、異なる性状を持った構造体どうしを分割して力を伝達しないようにする継目のことをいう。

エキスパンションジョイント - Wikipedia

です。通常、略して「エキスパン」と言われています。

 

建物は、構造や用途によって、地震時の揺れが異なります。そのため、建物同士に適切な空きが定められています。これは、構造計算によって求められています。施工業者が決めることでなく、設計者が決めることです。施工者は、設計者の指示のもと、適切な空きで建物を造ります。

じゃあ、利用者にとって、建物同士に隙間があっていいかというと、そうではありませんので、金物によって隙間を塞ぐようになっています。それをエキスパンションジョイント金物(EXP.J金物)といいます。

その金物は、壊れることを想定して作られているのではありません。しかし、想定外の強い揺れが起こった場合壊れることがあるのです。また、その金物が地震の力を吸収するのではありません。地震の力を吸収するのは、免震構造の話で、地下に免震階が設けられていて、人目に触れることはありません。

 

 

画像からわかること

 もう一度、画像に戻り、問題点をみると、

1、エキスパンションジョイント金物が剥がれ落ちていること。

→衝撃によって、おそらく落下したと思われます。本来、片方の建物に固定し、もう一方はスライドする。もしくは、両方固定して、緩衝材が伸縮又はスライドして対応する仕組みになっています。想定の範囲内の揺れでは壊れることはありません。よって、落下により階下に影響がなかったのかが問題です。人や物に被害はなかったのでしょうか。

 

2、建物が破壊されていること。

→本来、接するはずがないのに、建物が接したことで壊れています。これは、躯体の補修工事が必要となります。そのような工事が必要とならないように、金物で調整しているはずなのに壊れています。それには時間と金が必要になります。とはいえ、今回は想定以上の揺れがあったと思われます。建物本体の他の箇所で損傷がなかったのかが問題なのです。

一般的なマンションでは、15cm位の空きが、一般的だと思いますので、見たところタイル二枚分ほどなら、妥当な空きだったと思われます。

 

 

つまり、伝えられることは、想定以上の震度があった。と言うことです。

想定以上とは、建築基準法で定められた震度以上であったということです。

 

 

免震構造

先ほど、免震構造について少し触れました。

最近は病院や、大きなビルでは地下に免震階があり、地震の揺れを ゴムで吸収します。少し前に、東洋ゴムが本来の機能をもっていないと話題になりましたね。免震構造をもった建物の場合は揺れることを想定しています。

ちょっとややこしい話ですが、地震が起きたときには、地面が揺れます。そのとき、建物も同じ動きをするのではなく、免震ゴムが力を吸収することで、結果的に建物が揺れない仕組みになっています。つまり、地面と同じ動きで揺れるのではなく、地面とは逆に揺れることで、結果的に動かない仕組みです。(んー手で説明したい。)

この場合、建物と地面との間に免震EXP.J床があります。

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アーキパンション免震シリーズ(建築用エキスパンションジョイントカバー(免震構造建築用タイプ)) | ABC商会

 

このようなものを病院の入り口等で見たことありませんか?これは、側溝のふたではありません。(まあ、似たような役割をもっていますが、)免震EXP.J床といって地震が起きたときに、跳ね上がる仕組みです。建物側に固定されていて、建物より外に向かってスライドするようになっています。先ほどのマンションのように、金物が壊れることは絶対にありません。

 

※以下、設計者向けのコラムです。

メーカーさんの別窓が開きます。

若手設計者が知っておきたいエキスパンションジョイントの基礎知識 Part1 | ABC商会

若手設計者が知っておきたいエキスパンションジョイントの基礎知識 Part2 | ABC商会

若手設計者が知っておきたいエキスパンションジョイントの基礎知識 Part3 | ABC商会

 

 

 

EXP.J金物は身近にあります

このように、身近なところにEXP.J金物はあります。マンションの繋ぎ目、学校と体育館との繋ぎ目、増築された建物との繋ぎ目、広いショッピングモールの繋ぎ目、そして、病院の出入り口。気にしてみると、よく見かけるはずです。

 

それらが、全て、地震が起こるごとに壊れるわけではありません。地震によって、何か不安になることはありませんので安心して下さい。

 

一般の方々はこんなつくりになっていることを知っていなくていいと思います。壊れるかどうかなんてことも、知らなくていいと思います。だた、3つだけ知って欲しいことがあります。気を付けてほしいことです。

 

 

知っていてほしいこと3点。

1、EXP.J金物の上に物を置かない。

EXP.J金物は揺れることを想定しています。地震時には動きますので、物が有っては正しく動かないばかりか、それによりけがをする恐れがあります。

2、EXP.J金物を跨いで物を固定しない。

EXP.J金物を周りでは、手摺が連続していないはずです。縁が切ってあるはずです。それと同様に、柵等でこていするものを置いてはいけません。

3、地震時にはEXP.J金物から離れる。

免震EXP.J床は、地震時にスライドする構造となっています。よって、跳ね上がってきます。自分の身長ほど離れれば十分だと思われますので、地震だと気付いた時にはそれから離れてください。

以上です。

 

繰り返しになりますが、建築においては、壊れることを想定して作られているものは、原則ありません。壊れることがあるのは、建築基準法で定められた以上の力が加わったこと。若しくは、壊れることにより、人の安全や財産が守られることですが、それは建築というよりは設備だと思います。

地震が起きたときは、建物の頑丈さ(靭性)で耐えるか、追従して力を分散するかどちらかです。EXP.J金物は後者です。よって、壊れることを前提に作られていません。